大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和44年(行ウ)6号 判決

新潟市万代四丁目二番八号

原告

水口芳江

右訴訟代理人弁護士

渡辺喜八

新潟市営所通二番町六九二-五

被告

新潟税務署長

征矢五一

右指定代理人

中村勲

長谷川孝

山田厳

佐藤等

神林輝夫

田村広次

岡孝美

宇崎一夫

加納

右当事者間の賦課決定処分取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

原告

一、被告が、昭和四二年八月三一日付で原告に対しなした昭和四一年分所得税の確定申告の更正中、課税標準額金一六万二六〇〇円、所得税額金四一〇円を超える部分、および加算税賦課決定はこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

被告

一、主文同旨

第二、請求原因

一、原告は新潟市万代四丁目二番八号に居住し、同市内において新潟県風俗営業等取締法施行条例第一条第二号のロに規定するバー「ボトナム」並びに「明子」(以下単に「ボトナム」、「明子」と称する。)を営むものであるが、昭和四一年分所得税につき昭和四二年三月一五日被告に対し課税標準を金一六万二六〇〇円として確定申告したところ、被告は昭和四二年八月三一日課税標準を金三一万六八八八円、所得税額を金一万四一〇〇円とする更正処分および過少申告加算税金六〇〇円の賦課決定をし、右は同年九月二日原告に送達された。

原告は被告に対し、同年一〇月二日適法に異議の申立をしたところ、被告は同年一二月二七日棄却決定をしたので、原告は更に昭和四三年一月二六日関東信越国税局長に対し審査請求をしたが同局長は昭和四四年二月七日これを棄却する裁決をなし、右は同月一二日原告に送達された。

二、しかし、被告は本件更正及び加算税の賦課決定をなすに際し、原告が昭和四一年中株式会社朝日屋土田商店(以下単に土田商店という)から金三二万四〇〇〇円の酒類等の仕入れがあつたこと等を基礎にして所得税法第一五六条により同年分の事業所得を金九五万九六二三円と推計しているが、原告は同店からは同年中何ら仕入れがなかつたから、右推計は架空の事実を前提とするものであり、本件処分は違法である。

三、よつて、原告は被告に対し、本件更正処分のうち、原告の確定申告額を超える部分および加算税賦課決定の取消を求める。

第三、被告の認否

請求原因第一項は認める。同第二項は被告がそのような推計をして本件処分をなしたことは認めるがその余は争う。

第四、被告の主張

一、新潟税務署所得税二課の係官は、昭和四二年六月原告の昭和四一年分所得税の確定申告について事業所得の調査を行なつたが、その際原告は自己の申告した所得金額は正当であると主張するのみで、同係官の帳簿書類等の提示要求に対し帳簿はない、メモ類は焼却した旨答えたので、同係官は正確な所得の把握はできなかつた。

二、原告の昭和四一年分の所得税の収入金額金八三万〇三二〇円とする申告書記載の数類は、原告が遊興飲食税の関係で新潟県財務事務所に申告した「ボトナム」、「明子」両店の収入額(売上)と一致するが、これは「ボトナム」の客数を一日平均二人程度、売上金額は一日平均約金一五八〇円、「明子」の客数は一日平均二名程度、売上金額は一日平均一四三〇円として算出されており、「ボトナム」が新潟市内の中心部たる繁華街に店舗を構えていることだけから判断しても到底あり得ない数字であり「ボトナム」へのおしぼりの納入数の調査結果に照しても信用し難い数値である。

三、そこで被告は原告の酒類の仕入れ先について反面調査をし、それに基づき所得税法第一五六条の規定により同業者の平均差益率平均所得率を用いて推計した。すなわち、

1  仕入金額 合計金一〇一万六〇〇一円

イ 酒類 金七二万五六一二円

「ボトナム」は有限会社片山洋酒店(以下単に片山洋酒店という)から金四〇万一六一二円

「明子」は土田商店から金三二万四〇〇〇円

なお、右は前記遊興飲食税の関係で原告が申告した両店の売上額の比に略々一致する。

ロ つまみ野菜等の雑品 金二九万〇三八九円

不特定の店舗から現金仕入れの方法で仕入れており仕入れ金額を明らかにする資料がないので、新潟市内における事業規模が似通つた同業者(以下単に同業者という)の酒類の仕入れ金額に対するつまみ等の雑品の仕入れ金額の割合の平均値である四〇・〇二パーセントにより推計した。

2  売上原価

一般的には期首の商品、原材料在高と期末の商品、原材料在高は大差がないので仕入金額(金一〇一万六〇〇一円)をそのまま売上原価とした。

3  売上金額 金三一三万九六八一円

同業者の平均差益率(売上金額に対する売上金額から売上原価を差引いた差益金額の割合)は六七・六四パーセントであるので、これを用いて推計した。

4  差引所得金額 金一七九万七一五三円

同業者の平均所得率(売上金額に対する売上金額から売上原価の額及び事業に必要な一般的経費((但し、その企業固有の特別な経費を除く))を控除した差引所得金額の割合)は五七・二四パーセントであるから、これを用いて推計した。

5  特別経費 合計金八三万七五三〇円

イ 雇人費 金五五万二〇〇〇円

ロ 家賃

「ボトナム」の家賃年六万円(月額五〇〇〇円)

ハ 料理飲食等消費税 金八万三〇三〇円

ニ 事業専従者控除額 金一四万二五〇〇円(水口平の分)

6  所得金額 金九五万九六二三円

差引所得金額から特別経費を差引いた金額が原告の所得金額となる。

7  所得控除 金一五万七二六〇円

基礎控除 金一三万七五〇〇円

その他 金一万九七六〇円

第五、原告の認否

被告の主張事実第四の一は否認。

同二は争う。

同三の1のうち片山洋酒店からの仕入額は認めるが、その余は争う。土田商店からは仕入れていない。

同三の2ないし4及び6については、土田商店からも仕入があつたことを前提とする金額については争う。

同三の7は認める。

第六、証拠

原告

一、甲第一号証

二、証人水口平、土田又市、土田トク、菊地進、関栄子の各証言。

三、乙第一号証の一・二、第二号証の二、第一一、第一二号証の各一・二、第一五、第一六号証の各一ないし三、第一七号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第二五号証の一・二の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

被告

一、乙第一ないし第一二号証の各一・二、第一三、第一四号証、第一五、第一六号証の各一ないし三、第一七号証ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一ないし第二四号証、第二五、第二六号証の各一・二。

二、証人小林平七、猪浦芳夫(第一・二回)、小林繁治郎、渡辺久雄、新美佐一の各証言。

三、甲第一号証は、同一原本の存在及び成立を認める。

理由

一、請求原因第一項は当事者間に争いがない。

二、証人小林平七、猪浦芳夫(第一回)の各証言によれば、昭和四二年六月頃原告方において、本人不在のため営業全般を熟知している原告の夫水口平につき調査したところ、被告の主張第一項のとおりであつたことが認められ、証人水口平の証言中右認定に反する部分は前記証拠に照し合わせて措信できない。

三、各その成立に争いのない乙第一一、第一二号証の各一、二、同第一七号証、証人猪浦芳夫の証言(第二回)により成立を認めることのできる乙第一四号証、同第二六号証の一、二、証人菊地進、小林平七、猪浦芳夫(第二回)の各証言によれば、被告の主張第二項の事実を認めることができる。

四、被告の主張第三項1イのうち片山洋酒店からの仕入金額については、当事者間に争いがない。

土田商店からの仕入金額につき判断する。成立に争いのない乙第二号証の二、証人土田又市の証言により成立の認められる同号証の一、証人菊地進、新美佐一、猪浦芳夫(第一・二回)の各証言によると昭和四一年中に「明子」は土田商店から月平均金二万七〇〇〇円から三万円位の酒類を仕入れ、年間少なくとも金三二万四〇〇〇円を仕入れたことを認めることができ、証人水口平、土田又市、土田トク、関栄子の各証言のうち右認定に反する部分は前記各証拠に照し合わせて採用できない。

よつて、「ボトナム」及び「明子」の酒類仕入れ金額の合計は金七二万五六一二円を下らない。

五、同業者の酒類の仕入金額に対するつまみ等雑品の仕入金額の割合の平均値が四〇・〇二パーセントであることは、原告の明らかに争わないところであるから、前記酒類の仕入金額から雑品の仕入金額を推計すると金二九万〇三八九円となり、仕入総額は金一〇一万六〇〇一円を下らないものということができる。

六、被告の主張第四項3及び4の事実につき判断する。被告主張の同業者の平均差益率及び平均所得率ならびに一般的に期首と期末の商品、原料の在高に大差がないことについては原告の明らかに争わないところであるから、売上金額及び差引所得金額が被告主張の額を下らないものと推計することができる。

七、同項5の特別経費の金額については、原告は明らかに争わないところであるから、原告の所得金額は金九五万九六二三円を下らない。同項7の控除すべき金額は当事者間に争いないところであるから、課税標準たる総所得金額は金九五万九六二三円、所得税額は金一一万五七七〇円となり、これより少ない課税標準を認定しこれに基いて所得税額を算出するとともに過少申告加算税額を金六〇〇円とした更正処分及び賦課決定はいずれも適法であつて、原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土肥原光圀 裁判官 児嶋雅昭 裁判官中村行雄は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 土肥原光圀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例